大阪市福島区、野田恵美須神社の隣にあった古い薬局。
残念ながら、2014年頃に解体された。
白漆喰塗りの外壁に卯建(袖壁?)、虫籠窓というクラシカルな商家建築。
2階の階高が低いので、明治期の建物ではないかと思う。
軒裏まで漆喰を塗り込めるのが大阪風の町家建築の特徴。
おそらく火災対策だろう。
外壁も漆喰でしっかり覆いつくした大壁が主流。
いわゆる京町家は軒裏部分には漆喰を塗らず、木材がむき出しのままである。
大阪でも大正期の頃は京町家のような、真壁(ハーフティンバーのように木質部分が露出した壁)で
軒裏に漆喰を塗らない形式の建物が流行した。
おそらく、急激に都市部の人口が増え、短納期での住宅建設が急務になったことと
施工費節約のためだろう。
しかし、関東大震災の教訓のせいか大正末期以降の町家建築は
軒周辺の木材を露出することは少なくなり、銅板などの耐火素材で被覆するようになる。
大阪の町家にはその時々の流行や変化が取り入れられているために
素人でも大体の時代の判別がつくのだが、京町家はどれも似ていてよく分からない。
軒先に吊るされていた古びたプラスチック看板。
「くさのクスリ」
くさ=できもの、疱瘡など皮膚病の総称。「かさ」とも言う。
「オヤタスケ 親助」
福島区の街歩きを紹介するホームページで
「でんぼやあせもの特効薬として人気だった軟膏」との記載あり。
「でんぼ」とは、上方方言でオデキ(できもの)や腫れもののこと。
おそらく、それぞれが別個の薬剤の名称なのではなく、
「くさのクスリ=オヤタスケ」なのだろう。
患部をかきむしって出血したり、むずがっていつまでも泣き止まなかったりと
親を困らせる子供を鎮めることから、「親助け」と名付けたのではないだろうか。
皮膚薬を宣伝する古いプラ看板・ブリキ看板では
頭部に包帯をグルグル巻にされた小児の絵姿が散見される。
「できもの=子供」というイメージがあったのだろう。
自身の子供の頃のことを思い出しても、確かによく湿疹が出来ていたように思う。
並びには同じように2階の高さが低めの長屋が隣接していたが
ヱビス薬局の建物が解体された時と同時に解体され、今は集合住宅に変わっている。
他にも箱軒のついたタイル貼りの豪華な邸宅もあったのだが
薬局解体の何年か前に解体され、跡地は駐車場である。
薬局も町家も保存状態が良かっただけに非常に残念だ。
明治期の物と思われる漆喰壁の商店、長屋、昭和初期風の重厚な邸宅が一直線に並び
その向かい側は神社の植栽と石垣という、古風で素晴らし眺めだった。
Google Earthの画像。
野田恵美須神社の敷地に沿って、瓦屋根の建物が並んでいたことが分かる。
黄色い丸印がヱビス薬局、その右側にある駐車場に邸宅があった。
Googleのストリートビュー画像。
建物の1棟1棟にもそれぞれに価値があるのだが、
古い建物が連なっているという景観には、さらに付加価値があると思う。
今、この細い道路沿いに残る古い建物は
屋内駐車場として使用されている古い銭湯建築だけである。
『ヱビス薬局』
旧称:
住所:大阪市福島区玉川4
指定:
階数:地上2階
構造:木造
設計:
施工:
竣工:
撮影:2013年8月
現況:
×(2014年頃解体)
【参考】
・
参考図書一覧
・
瘡(カサ)とは - コトバンク
・
湿疹・くさ・皮膚病
・
でんぼとは - 日本語表現辞典 Weblio辞書
【一覧】
・
建築リスト 一覧
・
建築リスト 大阪府